第5章 食物アレルゲン

[ 要 旨 ]

  1. 1食物アレルゲンの本体は、大部分が食物に含まれるタンパク質である。
  2. 2食物中で特異的IgE抗体が結合するそれぞれのタンパク質をアレルゲンコンポーネント、その結合部位を
      エピトープ(抗原決定基)という。
  3. 3遺伝子配列またはアミノ酸配列が同定されたアレルゲンコンポーネントは、国際分類で命名されている
      (例:Ara h 2、Gly m 4など)。
  4. 4植物性食物アレルゲンの多くは4つのタンパク質スーパーファミリー(プロラミン、クーピン、Bet v 1ホモログ、
      プロフィリン)に、動物性食物アレルゲンの多くは3つのタンパク質スーパーファミリー(トロポミオシン、
      パルブアルブミン、カゼイン)に属している。
  5. 5臨床症状と関連のあるアレルゲンコンポーネントが明らかになってきている。
図5-1 タンパク質の消化・熱処理による変化

特異的IgE抗体はタンパク質構造の特定の部位(エピトープ)を認識して結合する。一連のアミノ酸配列で構成されるものを連続性エピトープ、立体構造によって形成された不連続なアミノ酸配列で構成されるものを構造的エピトープという。

表5-2 植物性食物アレルゲンタンパク質スーパーファミリーの特徴

LTP:脂質輸送タンパク質、OAS:口腔アレルギー症候群

食物アレルゲンは限られたタンパク質ファミリーに所属していることが明らかになっおり、植物由来の食物アレルゲンでは6割以上が4つのタンパク質ファミリー(プロラミン、クーピン、PR-10、プロフィリン)に所属している。

表5-3 動物性食物アレルゲンタンパク質スーパーファミリーの特徴

動物由来の食物アレルゲンの多くが、トロポミオシン、パルブアルブミン、カゼインの3つのタンパク質ファミリーに所属している。リポカリンは吸入アレルゲン(動物の唾液など)として重要であると同時に牛乳のβ-ラクトグロブリンが所属するタンパク質ファミリーでもある。

表5-4 主な小麦アレルゲン

HWPEIA:hydrolyzed wheat protein exercise-induced anaphylaxis
WDEIA:wheat-dependent exercise-induced anaphylaxis
An:anaphylaxis

小麦には、多くのアレルゲンコンポーネントが存在して、それぞれ異なる病態に関与することが知られている。

表5-5 主な大豆アレルゲン

Gly m 4は、花粉-食物アレルギー症候群の原因抗原といわれている。Gly m 8は小児の即時型大豆アレルギーとの関連が報告されている。

表5-7 種子類の主なアレルゲン

種子類では、生物学的分類上はかけ離れたもの同士でも交差抗原性が認められることがあり、コンポーネントレベルでの理解が重要になってくる。ピーナッツのAra h 2の特異的IgE抗体測定は臨床検査として用いられている。

表5-8 果物・野菜の生物学的分類と主なアレルゲン

果物・野菜で同定されているアレルゲンの多くはPR-10、プロフィリンである。

表5-9 主な鶏卵(卵白)アレルゲン

卵白の主なアレルゲンは、オボムコイドとオボアルブミンである。オボムコイドは加熱によって変性しにくい性質を持つ。

表5-10 主な牛乳アレルゲン

牛乳の主なアレルゲンは、カゼインとβ-ラクトグロブリンである。

図5-9 cross-reactive carbohydrate determinant( CCD)の構造

CCDを認識するIgE抗体は多種の豆類やナッツ類に交差抗原性をもたらすが、マスト細胞を脱顆粒させる力が弱いため、アレルギー症状を惹起することが少ない。

表5-11 食物アレルギー患者が注意を要する食物抗原を含む医療用医薬品
【投与禁忌の医療用医薬品】

医療用医薬品に食物由来の成分が含まれていることがある。上記以外に漢方薬の中には小麦(該当生薬:小麦)、ゴマ(該当生薬:胡麻)、モモ(該当生薬:桃仁)、ヤマイモ(該当生薬:山薬)、ゼラチン(該当生薬:阿膠アキョウ)などを含むものが存在する。

【投与禁忌の一般用医薬品など】

■インフルエンザワクチン接種:
鶏卵完全除去中や鶏卵摂取後にアナフィラキシーを起こした病歴がある児など、接種可否の判断が困難な症例の場合は、専門施設へ紹介する(「インフルエンザ予防接種ガイドライン2015年版」)。
■ 各薬剤の添付文書情報は「医薬品医療機器情報提供ホームページ」より検索が可能である。
http://www.info.pmda.go.jp/index.html

口腔ケア製品・化粧品・入浴剤・石鹸など生活用品にも食物由来の成分が含まれていることがある。

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